市立病院における妊婦の心のケアについて(12月一般質問より)

2017年12月31日 18時21分 | カテゴリー: 活動報告

不妊治療と同じく、妊娠後の検査技術の進歩も目覚ましいものがあります。現在では、妊婦の血液を検査するだけで、お腹の子どもに障害があるかどうか高い精度で判別できる新型出生前検査もできています。検査を受けるか否か、あるいは検査後、お腹の子どもに異常が見つかった場合、妊娠を継続するか否か、以前にはありえなかった妊婦の新しい悩みもまた生まれています。妊婦の心に寄り添った相談体制の充実を訴えるため、一般質問に取り上げました。

 

今、人の生死には、医学が大きく関わっています。

現在、人の生死に対する認識は、医学によって支配されつつあります。心臓が動いていても、脳が死んでいると脳死といわれます。もう生き返ることはないのだと、理性では理解できますが、感情的にはなかなか理解しづらい現実です。
そして今、妊娠、すなわち「いのちの萌芽」の時点で医学的介入が行われています。技術の進歩により、お腹の中の子どもが健康であるのか、そうでないのか、性別や体の形など、何も情報がないまま産んでいる人は、妊婦健診を受けている人の中にはほとんどいません。

そして、その技術の最も進んだものが、出生前検査であると私は思っています。

出生前検査とは、簡単に言えば、お腹の中の赤ちゃんに障害があるかどうか、判断する検査です。

検査の目的は、「病気を持った子どもがいたらできるだけ早く見つけ、新生児医療を行える分娩施設などの転院などを検討すること」「出産後すぐに手術や投薬が開始できるように待機すること」「胎児治療を行うこと」とされています。
胎児への治療の技術は今後、進むと予想されますが、現状、染色体疾患や重篤な形態異常が発見された場合には、妊娠の中断につながるケースは少なくありません。

1996年に改正された「母体保護法」では、優生思想に関する条項が削除され、「胎児条項」がないため、本来、胎児に異常があるからという理由の堕胎は法律違反です。しかし、第14条1の「妊娠の継続または分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれ」の拡大解釈のもと、中絶が行われるケースは多いのが現状です。

出生前検査の種類は、現在8種類あります。
「羊水検査」
「繊毛検査」
クアトロテストと呼ばれる「母体血清マーカ―検査」
「通常の超音波検査」
「妊娠初期超音波検査」
組み合わせ検査である「コンバインド・テスト」
「妊娠中期超音波検査」
NIPTとよばれる「新型出生前診断」です。

最後の「NIPT」「新型出生前診断」と呼ばれる検査は、妊婦の血液を分析することで胎児が例えば染色体疾患ではないという陰性診断を99.996%の精度で判断できる検査です。
ただ、陰性の場合に比べて陽性の場合には、検査で陽性という結果が出ても、その内10%ほどの胎児には異常がないという精度であり、確定診断を行うには、羊水検査などの専門検査が必要となります。

日本におけるNIPTは、2013年4月、NIPTコンソーシアムという共同研究組織による臨床研究という形で始まった新しい技術です。この組織は、2014年6月、日本遺伝カウンセリング学会の会場で1年間の報告をしています。
導入後1年間で実施されたNIPTは、7775件。その中で分析の対象となったのは7740人。そのうち、142人が陽性と判断され、そこから羊水検査などに進んで染色体異常が確定したのは113人でした。そのうち、101人が妊娠を中断。衝撃的なデータとして世間の注目を集めました。

お腹の中の子どもに障害があったとわかった人の多くが中絶を選択したという事実はたしかに衝撃的ですが、授かったいのちはどんなことがあっても産みたいと思っている人は、そもそもNIPTや羊水検査を受ける確率が低いため、ここで中絶率が高いことはある程度納得できる結果です。この中絶の確率をすべての妊婦にあてはめることはできませんが、出生前診断と妊婦の決断の一つの現実を表しているとは言えると思います。

晩婚化に伴い、出産の高齢化が進んでいるのは先に述べたとおりです。2高齢出産は妊婦にも胎児にとっても、妊娠、出産の危険が高まり、検査等の医療的介入の需要は、今後、ますます高くなると想定されます。

不妊治療にも言えることですが、人が「今ある技術」を使わないでいることは困難です。

血液採取だけという簡便さもあり、不妊治療と同様にこの新技術が一般に普及する可能性は高いと考えます。

現在、妊婦健診を受けている全ての妊婦は超音波検査という広義の出生前検査を受けています。
胎児の心臓の拍動や大きさ、位置など現在では3D画像ではっきりと見える装置もあるそうです。
本来、超音波検査は、異常を発見するための健診ではありませんが、技術の進展により、超音波検査の画像で意図せず、異常を発見できてしまうという問題もあります。
超音波健診を受けている妊婦のどれほどの割合の人が、それが「出生前検査」であることを認識しているでしょうか。私も妊娠時超音波検査を受けていましたが、私はそれが出生前診断であるとは認識できていませんでした。

私には、恐れている未来があります。

出生前検査が現在の超音波検査のように当たり前になった時、そして現状がそうであるように、胎児に異常が見つかった多くの妊婦が中絶を選ぶようになった時、それでもその子どもを育てようと決心し、出産した母親、あるいはあえて出生前検査を受けないことを決めた母親に対して、世間が「それは自己責任である」と切り捨てる、そのような未来です。

私は、検査結果によって妊娠を中断する人を批判しているわけでも妊娠を継続する人を称賛しているわけでもありません。ただ、技術の進歩によって「胎児について知らないでいること」が難しくなるであろうこれからの妊娠というものに対する妊婦への心のケアが、今は不足しているのではないかという危惧を抱いています。

技術の進歩の速度に対して、妊婦の意思決定への手助けが欠如していると感じています。

技術を提供する医学側が今、しなければならないこととは何か。それは、妊婦が冷静に判断できる客観的な情報を与えるとともに、妊婦の気持ちに寄り添うことです。

イギリスなどでは、現在、希望する妊婦はすべて自己負担なしに公費で新型出生前検査を受けていますが、日本産婦人科協会は、障がい者等への配慮という面から、検査を積極的に推奨すべきではない、という立場を取っています。出生前検査はタブー視されている側面もあり、日本では、出生前診断に関する法整備はなかなか進まないと考えられます。

医師を含む科学者は、技術の進歩を絶えず追い求め続けていますから、法整備等が足踏みしている間に、簡単にできて精度の高い検査の技術は、どんどん進みます。

気軽にできるから「念のためやっておこう」「不安をなくしておこう」と思う人は、出産年齢が上がるに従い増えると予想されます。全ての人が出生前検査とはどういうものかと深く考え、決断しているわけではありません。特に妊娠期間中は、中絶できる期間が限られているため、ごく短い時間での決断と対応が求められます。むしろ考えないようにしようという妊婦も多いと予想されます。いのちの選択に関わるかもしれない重要な場面で、それでいいのでしょうか?

資料をご覧ください。(議場で配布)44歳で出産を経験した漫画家、藤田元子さんの「高齢出産ドンとこい」の一部です。初版は2004年なので、ここに描かれている検査は、新型出生前検査ではなく、それ以前からあった「クワトロテスト」という精度の低い検査ですが、そこに描かれている検査に対する妊婦の対応は、とても一般的なものだと私は思います。

漫画には、「どうして調べちゃったんだろう」というセリフがあります。
このような言葉をはく妊婦を減らすために、病院は努力していただきたいのです。

検査を受ける決断をするとき、検査後、結果により妊娠の継続や中断を決断する時、決定は妊婦にゆだねられていますが、妊娠出産は、その女性一人だけの問題ではありません。夫や家族の希望や考え方が大きく関わっています。
遺伝相談の外来に関わる臨床心理士のところには、検査を受けるかどうか決めかねて、まず情報を得たいと思って来る女性やカップル、高齢が理由の漠然とした不安を訴える女性などが相談に来るといいます。
出生前診断について深く考え、仮に自分は診断を受けたくないと思っても、胎児にとっては祖父母に当たる夫婦の親たちが、高齢出産を心配して検査を勧めるケースも考えられます。

結婚は、家同士のつながりという概念は薄れてきてはいるものの、子どもについてはそのつながりは未だ根強くあります。自分も不安がある中、特に夫の親などに対して、その勧めに強く逆らい、あくまでも自分の意思を通すことができる女性は、どれほどいるでしょうか。

検査を受ける、受けない、その段階で決断を行うために、正しい情報を与え、客観的な状況で相談できる体制を身近に準備しておくことが重要です。

市立病院は、市民に近い病院です。妊婦の悩みを少しでも和らげることができる体制が整っている。そういう病院であってほしい。
そのために、現在の対応の確認と姿勢を問いたいと思います。現在、市立病院では羊水検査などの出生前検査は行っていないことは承知しています。現在は、相談の需要は少ないかもしれませんが、これからの技術の進歩を見越して、一つの問題提起として質問したいと思います。

質問内容

 (病院長質問)

産婦人科がある総合病院として、妊婦の心のケアについてどのような対応が求められるべきか、

病院長のお考えをお聞かせください。

 

(質問)

出生前検査に関する情報はどのようにして提供しているのでしょうか。

胎児の状況を把握するため、市立病院が行っている出生前検査にはどのようなものがありますか。

産婦人科で胎児の状況を把握するために出生前検査を希望する妊婦はいますか。

 その理由と希望した人数についてお答えください。

出生前検査の確定診断に向かう方への説明は、どのように行っているのでしょうか。

⑥悩めるのは、確定診断を行っている病院に足を運ぶ前までです。
産婦人科内に確定診断を受けるかどうか悩んでいる人に対する相談窓口はありますか。

妊婦のこころのケア体制を充実するため、遺伝カウンセラーの研修に参加するなど、相談体制のより一層の充実を図るべきと考えるがいかがでしょうか。

答弁

①⑥⑦ 病院長

・出産を控える妊婦や家族は、新たな生命を授かる喜びとともに、お産やその後の子育てに対する不安など様々な心配を抱えている。

・総合病院に限らず、お産を取り扱う機関では、産婦人科、小児科などの医師をはじめ、助産師などが、妊婦の状況に応じ、適宜、協力、連携して、心のケアに当たることが重要である。

・当院産婦人科においては、不安を覚えている妊婦がいた場合には、受診時や健診時に、医師や看護師が相談に応じているほか、助産師外来を設けるなど、多様な訴えに応じられるようにしている。

(助産師外来は、希望者のみ。外来なので、医療費がかかる)

・精神的に不安定な方などについては、精神看護専門看護師が対応するなど、他部門との連携のもと、きめ細やかな心のケアを実施している。

・相談体制の充実を図るため、職員が患者の心のケアについて学ぶことのできる学会や研修会等に参加できるよう、病院として積極的に支援している。

②③④⑤ 事務局長答弁

・当院では、胎児の状況を把握するための出生前検査としては、妊婦健診時の超音波検査のみを行っている。

・高齢出産や内科系疾患をお持ちの方などからごくまれではあるが、当院では実施していない確定診断のための羊水検査などについて、健診時に個別の相談を受けることもある。

・こうした相談には産婦人科医師が対応し、羊水検査や新型出生前検査と呼ばれるNIPTなどについて検査内容を説明し、必要に応じて適切な専門医療機関をご案内している。

答弁後の要望

現状では、市立病院では出生前検査に関する相談は少ないこと、相談があった場合などには、助産師外来など相談できる体制があることが分かりました。また、職員が患者の心のケアについて学ぶことのできる学会や研修会に参加する際には、積極的に支援する体制があるなど、心強く感じます。

市立病院の職員の方のお話を伺って、世界的な出生前診断の現状と、市立病院を受診している妊婦さんたちの現状はまだまだ遠いのだと実感しました。
しかし、再三申し上げているように、技術の進歩はものすごい速さで進んでいます。出生前検査を受ける人は、これから増えてくると予想されます。

疑問や悩みがあるとき、忙しい医師や看護師にだけ相談するのではなく、もっと気軽に相談できる場もまた必要です。助産師外来は、心強い味方かと思いますが、わざわざ予約を取って、受診料を払ってまで相談する人は、限られるかもしれません。

市立病院は大和市の病院ですから、市民の方にはすくすく子育て課の「子育て何でも相談・応援センター」に相談できることなど、市内連携の強化を図っていただきたいと思います。

そして一番重要なのは、不安に向き合う妊婦に寄り添い、気軽に相談に乗ることのできる雰囲気を作ること、それが信頼のおける病院運営へとつながると考えます。