やっぱりおかしい「地方議会議員の厚生年金加入」

この8月、全国市議会議長会は、「厚生年金への地方議員の加入について」というパンフレットを作成し、全市区議会議員に配布しました。今年の議長会定期総会で採択された「多様な人材の市議会への参画促進に関する決議」の中に盛り込まれた「厚生年金制度への地方議会議員の加入実現」を受けて作成されたものです。これを配布することにより、この9月定例会で各市の議会で意見書提出や採択をするよう求めています。

加入推進の理由や説明の概要は次のようなものです。
①多様な人材の参画を促し、意欲的な議員活動を励ます。
(サラリーマンが議員に転身しても、厚生年金が受けられれば、老後の生活や家族を心配することなく選挙に立候補しやすくなる。議員に安心感を与え、意欲的な議員活動を励ます。)
②厚生年金への加入を求めるもので旧議員年金制度の復活ではない。
(地方議員のみの特別な制度の新たな創設ではない)
③厚生年金の適用拡大を政府が推進している。
(週30時間以上の労働に加え、週20時間以上の労働でも厚生年金に入れるよう適用拡大について検討中)
④旧議員年金制度の廃止は、市町村合併の急速な進展等に伴う財政状況の悪化によるもの。
⑤新たな年金制度の検討は、旧議員年金制度の廃止法案の委員会採決の際、全会一致で付帯決議されている。
⑥厚生年金加入に伴う公費負担は、会社・法人等の事業主負担と同じ制度である。(制度を新たに作るわけではない)
⑦平成の大合併により議員数、議員報酬の大幅な削減となっている。
(20年前の議員報酬手当と比べて、現在は1兆3862億円の減)
⑧全国の地方議会から厚生年金の加入を求める声が上がっている。(1,054団体が厚生年金加入を求める意見書を可決/1,788団体)

なるほど、と思う方もいらっしゃるでしょう。
地方議員が厚生年金に入れるようにしようという動きの最大の理由は、地方議員のなり手が少ないというものです。これは事実で、困った事態です。現在、他に仕事を持たない専任の地方議員は増加傾向にありますが、年金は国民年金にしか入ることができません。給付が少ない国民年金では老後が不安でしょ、だから厚生年金に入ることが可能になれば、議員に立候補する人もきっと増えるのでは?というのが①の趣旨です。

そうかなあ?と私は思うのですが、以下、上記①~⑧にそって考えてみましょう。

①多様な人材の参画を促し、意欲的な議員活動を励ます。
厚生年金があるから立候補しようと考える人は、そもそも議員になる資格はないと思います。国民年金だけで不安なら、国民年金制度についての見直しを行うべきです。それを考えるのが議員の仕事です。議員になろうという人が不安なものは、その他の人も不安です。まず、自分たちだけ有利になるようにしようとするのは、本末転倒です。
地方での議員のなり手不足は、確かに問題です。サラリーマンが立候補しやすくするためには、立候補に当たって供託金(例えば市で立候補するには30万円かかります)の金額を減らすとか、休日に議会を開くとか、議員になったら休みを取りやすくできる制度を作るとか、他にいろいろあるはずです。

②厚生年金への加入を求めるもので旧議員年金制度の復活ではない。③厚生年金の適用拡大を政府が推進している。
会社員など正規雇用労働者はみな厚生年金に入っています。③の拡大も社会保障の点では労働者に対しては歓迎すべきものかもしれません。
しかし、そもそも議員と労働者とは働き方がまるで違います。議員は毎日、庁舎に行く義務があるわけではありません。議会は通常、3ヶ月に1度、大和市の場合ですと、すべての議員が市庁舎に行く義務がある日は、議会月でも 本会議初日、常任委員会、本会議(一般質問)の3日、本会議最終日と6日だけです。その他に特別委員会や議会運営委員会などに入っている議員はその日も行きますが、すべての議員が該当するわけではありませんし、1日中かかるわけでもありません。
では、何をしているのか?地方議員は市民の代表ですから、地元にいて市民から意見を聞いたり、議会報告会を開いたり、自治体業務の提案のために学習会に参加するなど、様々な活動をしています。仮に週30時間市庁舎にいるとして、何をすべきなのでしょうか?

④旧議員年金制度の廃止は、市町村合併の急速な進展等に伴う財政状況の悪化によるもの。
その通りです。ただ、旧年金制度はなくなりましたが、未だかつての議員にこの制度による年金は支払われ続けています。3年前の調査では、大和市で元議員に支払っている税金は、1年で約9500万円でした。今後、支払いは減っていくはずですが、その支出額は60年で1兆3600億円と試算されています。もちろん税金です。制度がなくなっても、今でも制度の名残はあるのです。パンフレットには、このことは書かれていません。

⑥厚生年金加入に伴う公費負担は、会社・法人等の事業主負担と同じ制度である
ここには、「新たに制度を設けて財政負担を強いるものではありません」と書かれています。厚生年金制度はご存知のように、年金掛け金と同額を事業主が支払う制度です。議員は誰かと雇用関係を結んでいるわけではありませんが、(強いて言えば、市民とでしょうか?)その報酬は税金から支払われているのですから、掛け金の半額も税金から支払うことになります。その額は、全国で年間170億円、医療保険分で110億円、合計で280億円と試算されています。しかも、厚生年金は扶養家族も加入になります。一体どれほどの税金が支払われることになるのでしょうか?

だから、⑦平成の大合併により議員数、議員報酬の大幅な削減となっている。という理由が上がっているのでしょう。ほら、こんなに減ったのだから年金に回してもいいではないか、と。税金の支出が減ったのは結構です。ならば、他の社会保障に回していただきたい。議員に安心感を与え、意欲的な議員活動を励ますよりも、例えば貧困の中にある子どものために税金は使ってほしいものです。

⑤新たな年金制度の検討は、旧議員年金制度の廃止法案の委員会採決の際、全会一致で付帯決議されている。と⑧全国の地方議会から厚生年金の加入を求める声が上がっている。は、ああそうですか、というよりほかありません。市民の関われないところで、自分たちに利する意見書を出しているというわけですね。

この問題が、国会で取り上げられ、新たな制度となる方法は、議員立法によるといわれています。国会議員がお仲間である地方議員に有利な制度を決めるというやり方です。地方議員の後は国会議員も、という流れになるでしょう。
議員は、仕組みを作る権力を授けられた存在です。権力は、自分のためにではなく、本来、国民や市民のために行使されるべきものです。そして権力を縛るために憲法があります。

2017年に神奈川ネットが行ったアンケートでは、市民の74%がこの新たな年金制度に反対をしています。
ちなみに、自分が加入している将来の年金制度に不安があると答えた市民は、82%でした。