ゲノム編集技術のこれから ノーベル賞受賞に際して

今年のノーベル化学賞は、ダウドナ氏(米)とシャルパンティエ氏(仏)に決まりました。まだ数少ない女性の受賞者が出たことは、うれしい限りです。私が見た毎日新聞の記事では、そのことを特に強調していないことにも好感を持ちました。

彼女たちが2012年に発表した「クリスパー・キャス9」というゲノム編集の革新的技術は、今では幅広い分野で応用されています。それ以前は不確実だったゲノム編集技術を高い精度で、しかも、少し訓練すれば高校生にでも扱えると言われるほど簡単に扱える手法です。2人のノーベル賞受賞は確実視されていましたので、受賞に驚きはありません。

この技術は、私たちのこれからの生き方に大きく関わってくるものです。病気治療、食料、そして生殖技術への応用が今後進むでしょう。

人間の全ゲノムの解読はすでに終了し、現在は遺伝子が原因と思われるあらゆる病気の遺伝子がどこにあるか、発見が続いています。がんのように多数の遺伝子が関与していると考えられる病気は困難かもしれませんが、ただ一つの遺伝子が関与している病気であったら、遺伝子治療は可能になるでしょう。どうやるのかは私にはわかりませんが、病気を引き起こしている特定の遺伝子を削除する、あるいは病気を起こさないように組み替えることによって、病気の発現を抑えるようにするのでしょう。難病と闘っている人やその家族には治療法の確立が待ち望まれていると思います。

食料に関しては、今後ゲノム編集食物が増えていくと思います。生物が際限なく大きくなることがないのは、成長を抑える遺伝子が存在するからです。例えばその制御する遺伝子を取り除いてしまえば、食べられる部分の多い食物が作れます。肉の部分が多い鯛や高リコピン含有のトマトなどはもう日本でも開発されています。日本は遺伝子組み換えでなければ、売り出す際に表示をしなくていいことをもう決めています。開発は、もう止められません。しかし、私たち消費者は自分の口に入るものを選ぶ権利があります。ゲノム編集で改変された食物であることがしっかりと表示されていれば、私たち消費者はそのどちらも選ぶことができます。表示するか否かを決めるのは政治であり、それを主張する権利があるのは国民です。

生殖技術では、自分の遺伝子を調べ、障害のある子どもが生まれる確率が高い人は、体外受精技術を使って受精卵を調べてからお腹に戻すのが当たり前になるかもしれません。障害によって子どもを亡くした親は、次の子どもこそは健康であってほしいと願い、同様のことを希望するかもしれません。 

技術の発展は留まることを知りません。科学者は夢に向かって突き進みます。19世紀のメンデルから始まった遺伝子研究は、時に倫理の前に足踏みしましたが、それを突き破って進んできました。人間の欲望は底知れません。病気にならず、健康で、頭がよくて、スポーツもできて、背も高くて、かわいくて……ゲノム編集はそんなデザイナーベイビーを作り出すことも可能な技術です。現在は、それは倫理上許されないことであるとされていますが。

目の前にある技術を使わない意思を保ち続けることは、人間には可能でしょうか。
それを制御していくこともまた、政治の仕事です。