行き詰る介護保険制度をどうするか

1月28日(金)、神奈川ネット主催による介護保険のオンライン学習会に参加しました。講師は淑徳大学コミュニティ政策学部学部長の鏡諭さんです。

2000年4月にスタートした介護保険は、介護の必要な高齢者や家族を支える目的で、社会保険として制度化されました。介護が必要な方の負担を社会全体で支えることを目的とした制度で、40歳以上の人には所得に応じた保険料の支払い義務があります。すっかり定着した制度ですが、その内容は複雑で、しかも3年ごとの改定があり、市民にとってわかりにくいものになっています。

高齢者は増え続けています。介護保険の給付額(使ったお金)はスタート時は3.6兆円でしたが、現在は12兆円。3.33倍です。サービスが増加すれば、お金もかかりますから保険料も上げざるを得ません。開始当初の保険料は平均2911円でしたが、現在の平均額は6014円で、2.07倍です。給付額の伸びに対し保険料の伸びは足りないため、介護保険制度は見直し、見直しでサービスの減少を招いています。寝たきりにならないと特別養護老人ホームに入れないなどがその一例です。保険料は上がっても、いざという時受けられるサービスは、年々減ることになっています。

介護保険を利用した人や家族からは、「制度があってよかった」という声が聞かれますが、実際に利用するようになるのはほとんどの人が80歳を過ぎてから。保険料を支払っている人の8%です。40歳以上の大部分の人は保険料を支払っているのにその恩恵に被っていないことから、「保険料は安いに越したことはない」と考えます。だから、行政もなかなか保険料を上げる事はできません。

保険料をおさえるためのひとつの手段は先に述べたサービスを減らすことです。もう一つは、働く人の給料を減らすこと。つまり介護報酬の引き下げです。2000年からこれまで、引き下げられた介護報酬は全体で約8%です。入ってくるお金が少ないので、介護事業所は経営難を強いられ、働く人に満足な賃金を支払うことができません。介護職の正職員として働く平均46.5歳の人の賃金平均は、職種にもよりますが、年310万から360万ほど。全産業の平均は約460万円なので、とても少ないことがわかります。パートの人などの賃金がさらに低いことは言うまでもありません。介護の現場は、精神的にも体力的にもきつい職場です。しかし賃金は低い。これでは働く人は集まりません。岸田政権が打ち出した経済対策の一環で、この2月から介護職員の給与が月額9,000円相当上乗せされることが決まりましたが、介護に関わる全ての職員が対象になっているわけではなく、根本的な対策にはなっていません。

介護が必要な方のために、事業所を運営するには人の手が必要です。今のままでは、自分や家族に介護が必要な状態になった時、通いたくても通える、入居したくても入れる事業所がなくなってしまいます。するとどうなるか?かつてのように家族だけで介護するしかなくなってしまいます。現在でも家族の介護殺人は2週間に1度の割合で起きていると発表した「NHKスペシャル介護殺人」の報告もありました。今後は高齢者はますます増加します。現場で働く人は減ります、では状況はますます深刻化します。

国の施策としては、介護報酬をあげ、介護現場で働こうと思う人を増やす取り組みが必要です。介護保険制度が始まる前のように、特別養護老人ホームなどお金がたくさんかかるサービスは、保険料からではなく、全額税金を投入するなどの施策も必要かもしれません。保険料を報酬の引き上げや在宅や通所でのサービスに、より多く回すことが可能になります。そうすれば、在宅での家族の負担は減ります。

介護保険制度の主体、介護保険料を決めるのは自治体です。ですから自治体は保険料を支払う市民に「なるほど、これなら保険料を支払う意味がある」と納得してもらう工夫が必要です。保険料が100円上がれば、これだけのサービスが増える。500円上がれば老人ホームが建てられるなど、目に見えるものにしていけば、納得する市民も増えるはずです。

「保険」は「将来の安心」を買うものです。誰でも生きていれば高齢になります。税金と同じく、介護保険も「私のためのもの」であり、「自分の親のためのもの」です。「保険料を取られている」のではなく「将来の安心のためのもの」という認識を私たち市民も持つ必要があると、学習会で実感しました。